孫子の兵法における位置づけ
戦いは正(せい)をもって合し奇(き)をもって勝つ
こちらは、孫子の兵法の勢篇(第5)で説明されているフレーズです。
皆さん、こちらのフレーズ自体は知らなくても、「正攻法」「奇策」という言葉は、ほとんどのかたがよく聞くのではないでしょうか。
この「正攻法」と「奇策」の使い方について、書かれているのがこちらとなります。
正攻法によって敵と向き合い、奇策で勝つ
正攻法と奇策、この2つについては、ここでは正攻法、ここでは奇策、と局面によって使い分けるようなイメージを持たれている方が多いかもしれません。
この点、孫子の兵法では、使い分けというよりは、正と奇の組合せをどのようにするかという点について書かれているように思われます。
正攻法によって敵を受けとめ、まずは負けない体制を作った上で、奇策を行うことで勝ちを得る。「正をもって合し奇をもって勝つ」からは、そのような組み合わせが、勝利のために欠かせないということが言われています。
正をもって合し、奇をもって勝った例
そうは言われても、ここまでの説明だけだと、あまりピンとこない人が多いかもしれません。
歴史上の戦いの中で、ちょうど、このフレーズに当てはめるものがありますので、中国とは関係のない地域、西欧の戦いになるのですが、参考までにご紹介します。
アレキサンダー大王のイッソスの戦い
アレキサンダー大王率いるマケドニア軍が、自軍より遥かに規模の大きかったペルシア軍を打ち破ったイッソスの戦いというものがあります。
この戦いにおける布陣は、思いっきりシンプルにデフォルメして描くと以下のような関係にありました。
左側では、上からのペルシア軍の強大な重装歩兵集団に対して、厚みが少ないながらも同じ幅に広げたマケドニア軍の重装歩兵集団が下で向かい合っており、ペルシア軍重装歩兵の突進をなんとかとめています。
これが、「正」すなわち正攻法の部分となります。
次に、右側では、上のペルシア軍において、そこまで厚くない端の軍(歩兵や騎兵)がいます。ここの端っこを狙って下のマケドニア軍では、アレキサンダー率いる猛者揃いの重装騎兵が端からえぐるような形で怒涛の攻めをします。
全体として兵数が少ないマケドニア軍ですので、中央の重装歩兵で数で勝つことはとてもできません。代わりに、右翼(向かって右側)の重装騎兵に対面する敵の左翼を突破するだけの戦力を集中して持たせたわけです。
一箇所に力を集中させ、その部分の局地戦に勝つことで、敵陣を端から崩し、側面から攻撃を加えるポジションを取ることで、混乱させることができます。
これが「奇」すなわち奇策の部分となります。
アレキサンダー大王はイッソスの戦いにおいて、孫子の兵法は読んでいなかったと思いますが、戦争のプロであり天才であった彼は、孫子と同じ、正をもって合し奇をもって勝つ、戦術を自然ととっていたと言えますね。
野球のピッチング
次はぐっと身近に、現代のスポーツ、野球のピッチングのお話です。
下の図ですが、上の四角がバッターボックス(ホームベース)、下から上に向かう矢印は、2つともピッチャーの投げるボールの弾道と考えてみてください。
正(左の矢印):ストレートでストライクゾーンに入れるピッチング(また来ると思わせる)
奇(右の矢印):カーブなど変化球、ストライクゾーンに入りそうで入らない(空振りさせる)
こんな風に、ストレートと変化球の組み合わせ、を考えると、イメージしやすいのではないでしょうか。変化球はそればかり投げても効果はなくなります。あくまでもストレートがあった上で、変化球が投げられることで、バッターはその変化に惑わされることになります。
T字型人材
さて、下の図は何を示しているでしょうか・・・・
すごいシンプルな図ですが、いわゆるT字型人材のT字をイメージしてみました。下の横棒が土台となる幅広く薄めの知識や経験、スキルなどです。これに対してまっすぐ真ん中の縦棒を下の横棒の土台の上に建てるわけです。
縦棒は、専門分野について尖った知識や経験、スキルなど、とがった強みのようなものですね。
奇(縦棒):自分の専門分野について突出させた力(縦に突出した棒)
正(横棒):深くないがある程度広く浅い力(横に細長い四角)
この図でわかるように、横棒は土台として必要です。横棒の土台があるから縦棒が立ちます。また縦棒があるからこそ、横棒だけでは届かない高さまで届いている、と言えましょう。
Youtubeでも語ってみました。
さていかがだったでしょうか。今回の「正をもって合し奇をもって勝つ」についてもYoutubeで語ってみました。音声だけ聞きながら作業をするのにも活用いただければ幸いです。
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