孫子の兵法における位置づけ
「上下の欲を同じうする者は勝つ」
こちらは、孫子の兵法の第3、謀攻篇で説明されているフレーズです。
「故知勝有五、(略)上下同欲者勝」として、勝利を得るためのポイントの一つとされています。
孫子の時代で軍事戦略書として君主に提供された性質であることを考えれば、ここの「上下」というのは、軍隊において、地位の高いものと低いものの関係と考えれば良いでしょう。
一番わかりやすいイメージで言えば、将軍と兵卒の関係ですね。将軍と兵卒が「欲」、つまり、個人的な欲望やモチベーションの方向性を一致させることができれば、その軍隊は、強い、と考えれば良いでしょう。
欲を一致させるとは、どういうことか?
「欲」に注目するところが、非常に「孫子」らしいように私は思います。キレイゴトでなく、本質を突くようなフレーズですね。
いわゆる「精神論」と正反対の話ですね。精神論を説くのであれば、決して、人の「欲」を認めてこれを利用するようなことは言わないですよね。
孫子は、組織における、構成員全員の「欲」の一致が重要だと言ったわけです。
実際に実現するためには、構成員の個々の欲求がなんであるかを知ることが、前提として必要になってくると思います。
チームメンバーが、どんなバックグラウンド(家族、友人、趣味、経済的な環境、夢)をもっており、何を「欲して」いるかを知ることがチームづくりのために重要だと言えば、日本人でも、みなさん自然と思い当たるのではないでしょうか。
上下の「欲」が違う例
では、上下の欲が違うというのは、実際には、どんな状況になるのでしょう。
ちょっとイメージが湧きにくいかもしれませんので、実例で説明したいと思います。
ビジネスで、店舗を経営する会社の社長さんと、店舗の店員さんの「欲」
・社長の気持ち:会社の売上・利益をあげたい
・店員の気持ち:お客さんが少ない方がラクでいい(売上が上がっても関係ないし)
例えば、こんな感じで食い違うケースが、結構あるあるなのだと思います。こんな状況だと店員さんは、店長や社長の目を離れると、来客が増えないような行動を知らず知らずのうちに取り、既に来店している客に対しては追加の注文をなるべく取らないような行動を知らず知らずのうちに取ることになります。
もちろん、店員も店長や社長から指示を受けたり叱咤されて、店舗の売上・利益を上げるように指導されているのが普通なんだと思います。
が、それをモチベーションづけるようなことなくただ売上を上げろ!と叱っているだけだと、結局は、深層心理のところで「欲」が一致していないことになり、チームが一丸となって一つの目標に向かうのは正直難しいでしょう。
上下の「欲」を一致させた例
逆に、上下の「欲」を一致させることに成功したイメージについても説明しますね。
Apple、スティーブ・ジョブス氏の例
私は、iPhoneやiPodなど超人気製品を作ってApple社を復活させることに成功した、スティーブ・ジョブス氏のやり方がまさにこれなのではないかと、思っています。
このようなスティーブ・ジョブス氏の行動や呼びかけを、孫子の兵法に当てはめた例は、私は未だ、どの書籍でも読んだことはなく、全く私の主観による物ですが、本当に当てはまってしまうなあ、というのが正直な感想です。
Appleに復帰した際に、落ち込んでいたAppleを立て直していくプロセスの中で、スティーブジョブス氏は、社内の価値観を作っていく際に、決して、売上を上げようとか株価をあげようとか、そういうことを社内に呼びかけたりはしなかったようです。
その代わりに何をしたかと言ったら、大まかにいうと、とにかくスゴイ物を作るんだ!ということを言い続けていたようです。ですので、商品開発においては、スティーブジョブス氏のこだわりはとんでも無い激しさがあったようです。妥協を許さない。
そして、Appleの従業員に対しても、素晴らしい物をとにかく作れ!こう言っていたわけですが、Appleの従業員にとって、これは「売上を上げろ」よりも、はるかに共感を得られる物であり、また、各自の、やりがい、プライドを刺激するものであったことが想像できます。
要するに、上下の欲を同じにすることに成功していたわけですね。
リッツ・カールトン ホテルの例
Apple社以外に、リッツ・カールトンホテルをご存知でしょうか。これは世界中のリッツ・カールトンがそうなのかはわかりません。
ただ、私は、リッツ・カールトン大阪の運営を行っていたかたの著書を昔読んだことがあるのですが、そこでは、お客さんに感動を与えることをスローガンにして、それをどうやって実現するかを朝礼で従業員に考えさせるような仕組みを作っていたとされていました。
もちろん、こちらの著書の中でも、孫子の兵法との関係は全く言及されておらず、結び付けて考えているのは全くの私の主観的なものですが。。
いずれにせよ、こちらも、従業員に売上をあげるぞ!というスローガンを与えていたわけではない点が似ていますね。
売上が上がったら末端の従業員にも多少ボーナス等で還元される部分があるのかもしれませんが、金銭的なモチベーションだけで末端まで動機付けを行うというのは所詮無理がある物ですね。
逆に、「お客さんに感動を与える!」という目標であれば、従業員は、やりがいを感じ、プライドも感じるはずです。そして、実際に感動を与えることができた場合には、お客さんから直接の、感謝の言葉をその従業員が受けられることになるのです。
これほど、従業員にとって、「欲」を刺激されることはないですよね。
「欲」は金銭欲に限られず、むしろ、チーム全体の「欲」を継続的に一つにするという視点で考えると、金銭以外の欲を一つにすることの方が、実際に力を発揮することになることが多いのではないか、そんな風に思いました。
Youtubeで語ってみました。
さあ、今回はいかがだったでしょうか。今回もYoutubeでも語ってみました。音声だけ流して聞くこともできますので、よろしければぜひ視聴いただければと思います。
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